特許活用に必要な「共同出願」「特許の共有」の具体的知識

共同開発では当然のように共同出願をしていませんか?

弁理士の山本が、
「共同出願」「特許の共有」についてわかりやすく解説します。

製品開発で他社と関係する業務(下請け、共同開発等)に携わる方、これから携わりそうな方は一読をお勧めします。

以前、特許権が共有になった場合について、基礎的知識を解説しました。
特許活用に必要な「共同出願」「特許の共有」の基礎的知識

今回は具体例で考えていきたいと思います。

具体例1:下請けの場合

A社とB社が共同出願をして特許αを取得したとします。そしてA社が下請けとしてC社を使っているとします。

Q:このときC社は特許αを自由に実施できるか?
A:下請けであろうともB社の同意なく、基本的に、C社は実施できません。

特許権が共有の場合は、あくまでもA社とB社(共有者)だけが特許αを実施できます。
C社が実施をしたい場合は、ライセンスを受けなければなりませんが、ライセンスを受ける場合は、ライセンスする者(A社)が他の共有者(B社)から同意を得る必要があります。

ここで、「基本的に」といったのは、C社が、以下①~③の条件を満たすと、A社の手足機関とみなして、B社の同意なく特許αを実施できます。
①工賃を支払う特約をしたこと
②A社の指揮監督の下での実施であること
③C社が特許αを実施して得られた製品の全部をA社に納入したこと

①~③を満たすとは、正当な市場原理で、A社が特許αを実施したのと同じ状態になるという事です。

このような例外(C社がA社の手足機関とみなされること)もあるので、共有出願をするときには知っておく必要があると思います。

具体例2:部品メーカと製品メーカで部品の特許を取得した場合

A社が部品イを製造する部品メーカで、B社が部品イを使った製品ロを製造する製品メーカで、A社の競合に部品メーカのC会社、B社の競合にD社があるとします。また、A社とB社が共有で部品イに関する特許βを所有しているとします。

Q:C社は部品イを製造してB社に納入することができるか?
A:C社が特許βを実施して部品イを製造することはできません。

部品イを製造すると、特許βを実施することになります。すると、最終的には特許権者のB社が部品イを利用するとしても、C社はライセンスを受けなければ特許βを実施できません。(特許製品の最終的な使用者が特許権者であっても関係ありません。)。B社は部品イをA社から購入するしかありません。

Q:D社がA社から部品イを購入して製品ロを製造することはできるか?
A:A社は特許βを実施して部品イを製造でき、それをD社(もちろんB社にも)に納入できます。
  D社は、正規に作られた部品イを使い製品ロを製造できます。

部品イを製造すると、特許βを実施することになります。特許βの共有者にA社は含まれ、共有者は、特許を自由に実施できるので、A社は部品イを自由に(誰にでも)製造・販売できます。B社としてはD社を責めたいところですが、部品イは、正規に(特許権者のA社)によってつくられたものですので、文句は言えません。

具体例3:部品メーカと製品メーカで製品の特許を取得した場合

A社が部品イを製造する部品メーカで、B社が(A社の部品を使った)製品ロを製造する製品メーカで、A社の競合に部品メーカのC会社、B社の競合にD社があるとします。また、A社とB社が共有で製品ロに関する特許γを所有しているとします。

Q:C社は部品イをB社に納入し、B社は製品ロを製造することができるか?
A:B社はC社から部品を調達し、特許γを実施して製品ロを製造できます。

製品に関する特許は、部品にまで効力が及びません。したがって、C社は部品イを自由に製造できます。したがって、B社はA社以外からも部品イを調達し、特許γを実施して製品ロを製造できます。A社はC社(またはB社)に文句を言いたいところですが、部品イに特許がなければ、文句はいえません。

Q:D社は部品イをA社から調達し、製品ロを製造することができるか?
A:A社が部品を納入してもD社が製品を製造することはできません。

製品ロを製造すると、特許γを実施することになります。例え、製品に利用する部品を特許権者から調達しても、製品の製造には関係ありません。特許権者であるA社がD社にライセンスすればよいようにも思いますが、A社がライセンスするにはB社の同意が必要です。

具体例4:大学との共同出願

A社とE大学が共同研究し、研究成果として特許θを共有で取得したとします。

E大学は、企業ではないので、特許θを利用して利益を上げることがありませんので、どこかの企業にライセンス料をもらいたいと考えます。しかし、ライセンスをするにはA社の同意が必要になります。A社としては、特許θの製品を独占したいと考えるのでライセンスに同意したくありません。したがって、E大学は、自分で実施もしないし、どこかの企業にもライセンスしない(できない)ので、A社に特許θの見返りを要求します。これを不実施補償とよびます。

大学との共同開発では、この不実施補償が共同研究契約の中に書かれています。共同研究契約は、研究が始まる前に締結しますので、研究からどんな発明が生まれるかわからず、不実施補償の額なども決まっている場合はあまりありません。

したがって、不実施補償があると、共同研究が終わってから多大な金銭を大学に払い続けることになる場合もあります。したがって、不実施補償のある契約書にサインするときは注意しましょう。(そうはいっても大学との共同研究では、不実施補償が契約に含まれる場合がほとんどですので、不実施補償の条件をよく検討し、他の条項との関係も含めて、契約全体として不利にならないようにしましょう。)

まとめ

簡単な具体例だけを挙げましたが、「特許の共有」では状況に応じて思うように製品をつくれなくなってしまう場合があります。赤信号みんなで渡れば怖くないといった考えで、特許の共有をしたくなりますが、赤信号が怖くなくても、一緒に渡る人がずっと味方とは限りません。

また、これらの具体例は、直接侵害だけを検討の対象としており、間接侵害等の他の要素を加えると、さらに複雑な検討が必要となります。したがって、「特許の共有」にかかわる事案では、個別に対応を検討する必要がありますので、専門家の意見を聞きながら慎重に検討を進めることをお勧めします。

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この記事を書いた人

山本 英彦