2016年5月12日:味の素が米独で韓国企業4社を提訴 製造特許侵害で

弁理士 山本英彦が知財ニュースをポイントを絞って解説します。

味の素が米独で韓国企業4社を提訴 アミノ酸の製造特許侵害で (産経ニュース)
http://www.sankei.com/economy/news/160511/ecn1605110022-n1.html

味の素が、韓国企業をアメリカとドイツで提訴したようです。
提訴の内容は、アミノ酸の製造方法に関する特許についての特許権侵害で、
韓国の食品メーカのCJグループ企業の4社に対して、
差止請求損害賠償請求のようです。

(このニュースは、続報がでてます。米、韓国CJを調査=味の素のアミノ酸特許侵害(2016年6月10日))

この記事のポイントは以下の3つだと思います。
(1)アメリカとドイツにおいて韓国企業が相手
(2)差止請求と損害賠償請求
(3)製造方法に関する特許

(1)アメリカとドイツにおいて韓国企業が相手
特許は国ごとに保有していなくては権利を主張(提訴)できません。
味の素が、アメリカとドイツで提訴したということは、
少なくともアメリカとドイツで特許を保有していたということです。

各国で特許を取ることについては、「属地主義」という言葉しってますか?をご参照ください。

複数の国で特許を取得するのは相当の費用がかかります。
それでもきちんと特許を取得しておけば、競合企業の参入を抑止することができるわけです。
さすが、味の素!グローバルな優良企業です。

(2)差止請求と損害賠償請求
差止損害賠償は、それぞれ、将来過去に対する特許権の効力になります。
すなわち、差止とは将来にわたって、特許製品を販売させないようにすること、
損害賠償とは過去に販売した特許製品について金銭で損害を補填してもらうことです。

損害賠償と罰金は違います。
特許で損害賠償と聞くと、悪行に応じて膨大な金額を想起してしまいますが、
過去に売れている製品についての賠償なので、
過去にあまり売れていない製品では、その製品が将来、膨大な売り上げになりそうでも
賠償金額はそれほど大きくなりません

味の素も、アメリカとドイツで相手企業の特許製品の売り上げが大きかったため、
アメリカとドイツで訴訟を起こしたようです。

(3)製造方法に関する特許
製造方法に関する特許とは、物を作るための方法で、
「A工程とB工程からなる製品Cの製造方法」というような特許です。

特許権を行使するときは、特許権者が侵害を立証する必要があるため、
製造方法の特許では、侵害品と思われる製品Cを入手できても、
製造方法が特定できない場合があります。

「製造方法の特許」について詳しく知りたいときは、
明細書チェック時に役立つ「発明のカテゴリー」の考え方をご参照ください。

今回、味の素は製造方法の特許で訴えているので、
何かしらの方法で製造方法(工程Aと工程Bなど)を立証しなくてはいけません。
一般的に、特許を取得するときに、日本では容易に権利行使できる物の特許の方が好まれます

ちなみに、アメリカにはディスカバリーという制度があり、
相手方がどのような方法で製品を製造しているか、開示を要求できます。
味の素がアメリカで提訴したのは、ディスカバリーがあることも理由の1つかもしれません。

今回の事件、提訴までの経緯や背景はわかりませんが、味の素に勝って欲しいと思ってしまいます。

このニュースの、さらに詳細な解説は、
2016年5月12日:味の素が米独で韓国企業を提訴をご参照ください。

この記事を書いた人

山本 英彦