2016年5月24日:フランク・ミュラー側が上告 「フランク三浦」商標訴訟

この記事の知ったかぶりポイントは「フランク三浦の事件は審決取り消し訴訟です。侵害訴訟ではないので、フランク三浦は負けても差し止めや損害賠償は受けません」という点です。
中小企業専門の特許活用サポータ 弁理士の山本英彦が、
ポイントを絞ってわかりやすく解説します。

フランク・ミュラー側が上告 「フランク三浦」商標訴訟(朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/ASJ5R5VLZJ5RUTIL06Y.html

フランク三浦」商標登録の有効/無効を争った事件で、
4月12日の知財高裁判決において「呼称は似ているが、外観で明確に区別できる」として、
「フランク三浦」商標登録は有効(維持)との判決がでていました。
この判決に対して「フランクミュラー」が知財高裁の判決を不服に最高裁に上告したとの事です。

知的所有権(特許、実用新案、意匠、商標)の訴訟は2種類あります。
(1)侵害訴訟
(2)審決取り消し訴訟

普通の人がイメージしているのは、(1)侵害訴訟だと思います。
侵害訴訟は、Aさんが権利(例えば、登録商標a)を持っていて、
Bさんが権利を侵害した場合(登録商標aと同一または類似の商標を使用した場合)、
AさんがBさんを訴えるものです。
AさんとBさんの民間人と民間人の争いですので、これを民事裁判といいます。

このとき、東京地裁または大阪地裁に訴訟を提起します(訴訟イ-1)。
その後、地裁の判決に不服があれば、知財高裁に控訴され(訴訟イ-2)、
知財高裁の判決に不服があるときは、最高裁に上告されます(訴訟イ-3)。
ご存じのように、最高裁の判断に不服は許されません

一般に馴染みがないのが、(2)審決取り消し訴訟だと思います。
審決取り消し訴訟は、Aさんが権利(例えば登録商標a)を持っていて、
BさんがAさんの権利は無効だと特許庁に訴えて(審判ろー1)、
特許庁が下した結果(審決といいます)に対して、不服のある方が特許庁(長官)を訴えるものです。

すなわち、登録商標aは有効との審決が出た場合は、Bさんが有効審決を出した特許庁を訴え、
登録商標aは無効との審決が出た場合は、Aさんが無効審決を出した特許庁を訴えることになります。
Aさんと特許庁、またはBさんと特許庁の争いですので、これを行政裁判といいます。

このとき(審判の後)は、知財高裁に訴訟を提起します(訴訟ロ-2)。
その後、知財高裁の判決に不服があるときは、最高裁に上告されます(訴訟ロ-3)。
これまた、最高裁の判断に不服は許されません

図に表すると以下の図になります。侵害訴訟と審決取り消し訴訟日本は三審制ですので、基本的には3回裁判を受ける権利を国民は持ちます。
侵害訴訟は、地裁、高裁、最高裁3回の裁判です。
審決取り消し訴訟は、高裁と最高裁2回の裁判です。
しかし、審判が先に行われているので、これを1回目の争いとして数え、
ちゃんと3回争ったとになります。

さて、フランク三浦の事件は、商標登録の有効/無効を争った事件で、
最高裁に上告ということは、審決取り消し訴訟(ロ-3)になります。

この裁判は、仮に最高裁でフランクミュラーが勝利しても
「フランク三浦」の商標が取り消されるだけです。
フランク三浦の商標の使用をやめさせたければ
フランクミュラーは、侵害訴訟を改めて提起しないといけません。

もちろん、侵害訴訟の前に交渉がされて、解決するとは思いますが、
裁判での解決だけ考えると、侵害訴訟でなければ使用を停止させることはできません

これを踏まえて、
「フランク三浦の事件は審決取り消し訴訟で、侵害訴訟ではないので、フランク三浦は負けても差し止めや損害賠償は受けないだよね」と言えば、
商標をわかってる感じがでると思います。

この記事を書いた人

山本 英彦