今さら人に聞けない「独立請求項(独立項)と従属請求項(従属項)」の関係(2)

「独立項」「従属項」って特許の業界では普通に使われていますけど、
何となくぼんやりしていませんか?

特許を活用して中小企業の利益を守る、中小企業専門の特許活用サポータ 弁理士の山本です。

この記事は、2016年6月29日に
経営者・知財担当者なら知っておきたい【独立請求項(独立項)と従属請求項(従属項)の関係】
にまとめなおしました。是非こちらをご覧ください。

以前、今さら人に聞けない「独立請求項(独立項)と従属請求項(従属項)」の関係(1)では、
特許権侵害の観点から独立項と従属項の関係を説明しました。
今回は、特許審査の観点から独立項と従属項の関係を考えていきます。

例1:
【請求項1】a部材を含む、装置
【請求項2】部材を含む、請求項1に記載の装置
【請求項3】部材を含む、請求項2に記載の装置

この時、【請求項1】は独立項
「請求項1に記載の装置」となっている【請求項2】は請求項1の従属項
「請求項2に記載の装置」となっている【請求項3】は請求項2の従属項
となります。

このことは、文字面を追えば何となく想像できると思います。
では、請求項1~3の権利範囲を考えてみましょう。

権利範囲は下図の用になります。独立請求項解説図1  独立項(【請求項1】)は、従属項(【請求項2】【請求項3】)より権利範囲が広く
上位の従属項(【請求項2】)は、下位の従属項(【請求項3】)より権利範囲が広くなります。
したがって、請求項1の権利範囲が一番広く次いで請求項2請求項3が一番狭くなります。
(ここまでは、侵害の観点からみたときと同じです。)

このような特許に対して、審査において以下のような引用文献(の記載)が見つかったとします。
【引用文献A】a部材を備える(部材、部材備えない装置
【引用文献B】a部材と部材を備える(部材を備えない装置
【引用文献C】a部材と部材を備える(部材備えない装置
【引用文献D】a部材と部材と部材を備える装置

このとき、権利範囲のイメージでは、下図のようになります。独立項と従属項の図1

【請求項1】は、【引用文献A】、【引用文献B】、【引用文献C】、【引用文献D】のどれか1つで拒絶となります。
【請求項2】は、【引用文献B】、【引用文献D】のいずれか1つで拒絶となります。
【請求項3】は、【引用文献C】で拒絶となります。

【請求項1】の権利範囲が広いというのは、多くの引例
(【引用文献A】、【引用文献B】、【引用文献C】、【引用文献D】)で拒絶されるということです。
次に権利範囲の広い【請求項2】は、【引用文献B】、【引用文献D】で拒絶になります。
権利範囲の一番狭い【請求項3】は、【引用文献D】にのみで拒絶になります。

したがって、審査の観点では、権利範囲の狭い請求項ほど特許になりやすいといえます。
特許権侵害の観点では、権利範囲が一番広い独立項【請求項1】だけあればいいと思われますが、
特許審査の観点では、従属項【請求項2】、【請求項3】を作るのが普通です。

例2:
【請求項1】a部材を含む、装置
【請求項2】部材を含む、請求項1に記載の装置
【請求項3】部材を含む、請求項1または請求項2に記載の装置

この時、【請求項3】は、実は2つの請求項になっています。
【請求項3-1】部材を含む、請求項1に記載の装置
【請求項3-2】部材を含む、請求項2に記載の装置
このような請求項3をマルチクレーム複数の請求項に従属している請求項)とも呼びます。

この時、【請求項1】【請求項2】の独立・従属関係は例1と同様です。
「請求項1・・・に記載の装置」となっている【請求項3-1】請求項1の従属項
「・・・請求項2に記載の装置」となっている【請求項3-2】請求項2の従属項
となります。

権利範囲は下図の用になります。独立請求項解説図3

独立項の【請求項1】は、従属項の【請求項2】、【請求項3-1】、【請求項3-2】
より権利範囲が広くなります。
上位の従属項の【請求項2】は、下位の従属項の【請求項3-2】より権利範囲が広くなります。
同列(共に【請求項1】に従属)の【請求項2】と【請求項3-1】は、同じくらいの権利範囲になります。

このような【特許請求の範囲】に対して、例1と同じように、以下のような引用文献が見つかったとします。
【引用文献A】a部材を備える(部材、部材備えない装置
【引用文献B】a部材と部材を備える(部材を備えない装置
【引用文献C】a部材と部材を備える(部材備えない装置
【引用文献D】a部材と部材と部材を備える装置

このとき、権利範囲のイメージでは、下図のようになります。独立項と従属項の図2

【請求項1】は、【引用文献A】、【引用文献B】、【引用文献C】、【引用文献D】のどれか1つで拒絶となります。
【請求項2】は、【引用文献B】、【引用文献D】のいずれか1つで拒絶となります。
【請求項3-1】は、【引用文献C】、【引用文献D】のいずれか1つで拒絶となります。
【請求項3-2】は、【引用文献D】で拒絶となります。

ここで、【請求項3】は、【請求項3-1】と【請求項3-2】を含むので、
【請求項3-1】と【請求項3-2】のどちらかが拒絶になると【請求項3】自体が拒絶になります。
したがって、【請求項3】は、【引用文献C】、【引用文献D】のいずれか1つで拒絶となります。

特許審査の観点からは、実質的にはマルチクレームが有利ということはないのですが、
マルチクレームの一部(【請求項3-2】)に特許性がある場合は、
審査官が、その旨の示唆をくれることがあるので、日本では、マルチクレームが好まれて使われます
(海外は別のルールがあって、マルチクレームにできないこともあります。)

以上の例から、従属項の権利範囲は独立項の権利範囲の中にある(狭い)ということがわかります。
特許侵害の観点からは、権利範囲の広い独立項だけでもよいのですが、
特許審査(無効審判を含む)の観点からは、権利範囲の狭い(特許になりやすい)従属項を設けておく方がよいことになります。

今さら人に聞けない「独立請求項(独立項)と従属請求項(従属項)」の関係(1)も合わせてご参照ください。

この記事を書いた人

山本 英彦