中小企業の知財にいたときは、特許侵害訴訟も経験しました。
特許侵害訴訟の始まりは、
「社長、○○工業から訴状が届きました!」
「なんだって!!」
というよう展開をイメージされませんか?
なにかのドラマであったよな記憶がありますので、
こんな展開をイメージされている人もいると思います。
しかし、このような展開になることは、海外ならあるかもしれませんが、日本ではまずありません。
通常は、訴状(提訴)の前に、警告書や通知書を送り、事前交渉をします。
事前交渉をする理由は簡単です。提訴すると費用や時間が掛かり、
負けた場合のリスクが大きいためです。
白黒はっきりつけるだけが目的なら、裁判をするのも、一応の良策かもしれませんが、
(他の策として、裁判の他に、特許庁の判定や、調停制度などもあります。)
通常は白黒はっきりさせることが目的ではなく、
特許侵害を止めさせて、独占市場で利益を得ることや、
ライセンスをしてライセンス収入を得ることが目的ですので、
そのためのコストとなる係争費用はあまりかけたくありません。
裁判をすると、かなりの費用と時間がかかります。
(「私の経験した特許侵害訴訟(費用)」を参照)
裁判に勝って損害賠償がとれても、下手をすると訴訟費用を補填できないこともあります。
ましてや、裁判に負けた場合は、一銭も入ってきません。
したがって、係争から得られる利益とリスクを考慮して、
普通は裁判を提起する前に、事前交渉を行うわけです。
事前交渉を行うときに重要なのは、交渉の落としどころを考えておくことです。
差止、損害賠償、信用回復等など、特許法や民法で認められる請求権はいろいろありますが、
これら全てを交渉で請求しても相手が「うん」というはずありません。
むしろ意固地になって、裁判まで発展してしまいます。それでは事前交渉の意味がありません。
例えば、損害賠償はあきらめるけど販売は中止してもらうとか、ライセンスを受けてもらうとか、
相手も納得できるギリギリのラインを決めておき、最初は全部請求するけど、
譲歩してギリギリのラインで解決することが事前交渉で大切だと考えます。
裁判になると費用や時間が掛かるのは、相手も同じなので、その費用や時間との比較で、
妥当な要求であれば、相手も要求をのんでくれると思います。
私も、訴訟を経験した後の係争では、落としどころを意識して事件に対処していきました。
中小企業の特許活用では、費用と利益を比較して、コスパの高い方策を取らなければいけません。
特許侵害があっても裁判で勝つだけが特許戦略ではないことを常に意識しておきたいものです。